【銀行に預けたお金】
あなたの預金はどの金融機関においてありますか? 銀行にお金を預けるとお金が増えるのは、あなたのお金が様々な企業・事業に投融資されていて、そこから得た収益の一部があなたに支払われるからです。それでは、あなたのお金がどんな企業・産業に融資されているか知っていますか? あなたのお金が知らぬ間に自分には賛成しかねる事業・産業に使われているようなことはありませんか?
今日は東日本大震災7年めの記念日です。「フクシマ・ダイイチ」の事故は外国でも大きく報道され、その後の事故処理の進展や避難した人たちの様子についても関心がもたれています。この事態を受けてドイツのメルケル政権(保守・進歩の連立政府)が早々と脱原発政策を打ち出し、韓国や台湾でも脱原発の声が上がるのに比べて、日本の脱原発運動は静かだなぁ、というのがオーストラリアでの印象です。
このブログに目を通す人々は原子力発電は止めて再生可能なエネルギーを使う社会を作りたいと考えている人が多いと思います。署名活動やデモなどに参加した人もいるでしょう。それでは、あなたのお金はどうでしょうか? 国際環境NGO 350.org Japanの調査によると、みずほ銀行や三井住友銀行などは原発関連産業にかなりの額の融資をしています。* これらの銀行に口座を持っていると、あなたのお金が原発促進に使われているということになります。
(*レッツ、ダイベスト!~未来のために銀行を選ぼう~ https://letsdivest.jp 参照)
【倫理的銀行・価値への金融業】
日本では、自分が反対する事業へ投資・融資する金融機関から自分の投資(預金)を引き揚げる、Divestment「銀行不買運動」はまだ始まったばかりですが、ヨーロッパではドイツのGLS銀行や オランダ・イギリス・スペインのトリオドス銀行が ルドルフ・シュタイナーの社会インパルスから生まれ、世界の倫理的銀行 (ethical banks) をリードしてきました。
(GLS銀行の設立については、ロルフ・ケルラー著『人間のための銀行』涼風書林 に詳しく書かれています。)
これらの銀行は軍事産業やたばこ産業など、社会的に害をもたらすと考えられる企業には投資・融資せず、代わりに教育や社会事業などを促進するために設立された銀行です。当初は気候変動はまだ語られていませんでした。筆者も1980年代イギリス留学中に少額を英国のトリオドス銀行の前身である「Mercury Provident」社に預けていましたが、年に一回ぐらいだったでしょうか、当銀行の融資先の一覧表が送られてきて、預金者が自分のお金をどこに融資したいか選べるようになっていました。バイオダイナミックやオーガニック農場へのサポートやシュタイナー学校のホール建設などのプロジェクトなどがあったのを覚えています。
〝倫理的〟と言っても、倫理観は人によって異なり、自分の立場だけが倫理的だと主張することはできないので、最近は〝倫理的銀行〟と言う代わりに〝サステナブルな銀行〟と呼ばれたり、〝社会的価値への融資〟などと言われたりします。これらの金融機関の連携を図る Global Alliance for Banking on Values という国際組織がありますが、これに加盟している日本の銀行はまだありません。日本にも近い将来そういう銀行ができるといいですが、まずは自分の預金の使われ方に責任を持つという意味で、大手銀行への預金をやめて、ダイベストメントをすすめましょう。
【350.orgのダイベスト運動】
日本のダイベストメント運動をリードしているのが気候変動問題に取り組む国際環境NGO「350.org」 の日本支部「350ドットオルグ・ジャパン」です。「350」というのは、住みやすい地球を維持するためには大気中のCO2濃度を現在のレベルの400ppmから、350ppm以下に安定化させる必要がある、ということから来ています。気候変動についてはいろいろな方法で取り組む必要がありますが、ダイベストメントは非常に重要かつ有効な方法です。
ああだこうだ言っても、気候変動対策が思うように進まないのは、「科学を信じるか信じないか」の問題ではなく、現存の化石燃料産業や原子力産業が栄えることで利益を得る人間がいて、それらの人間が企業献金を通じて国家レベルの政策決定に大きな影響を与えているからです。原子力発電や化石燃料関係の産業はは設備投資に莫大な費用が掛かりますが、そのためには当然金融機関から融資を受ける必要があります。金融機関の方もこれらの大産業は見返りが大きいので通常積極的に投融資するわけです。気候や環境問題は経済の問題なのです。
ダイベストメントはまずは個人レベルで、自分のお金が原発に使われるのは嫌だから、という理由で行われます。銀行口座だけでなく自分が加入している保険や年金などについても融資先を調べ、原発推進の金融機関からお金を引き揚げる(ダイベストする)わけです。個々人がそのようなことをやっているうちは大金融機関にとっては痛くもかゆくもないわけですが、金融機関の融資先に影響を与えるためには、ソーシャルメディアなどを使ってこれを大きな社会運動にする必要があります。「あの銀行、まだ原発に融資しているんだって。いやだね~ぇ…。」という声が多くなると、銀行のほうも黙って見ているわけにはいかなくなります。
詳しいダイベストメントの方法や、「地球にやさしい銀行」、「原発に関わる銀行」、「化石燃料に関わる銀行」などの情報については、350.org Japanの「レッツ、ダイベスト!~未来のために銀行を選ぼう~」のウェブサイトをご覧ください。また、350.org Japanは3月24日・25日に東京都多摩市で、ダイベストメント運動のリーダーを育てるための「ダイベストメント道場」を開くそうです。こちらについてもウェブサイトをご覧ください。
レッツ、ダイベスト!~未来のために銀行を選ぼう~ https://letsdivest.jp/
ダイベストメント道場 http://world.350.org/ja/
【社会を変えるのは政治家ではなく私たち】
アメリカの銃規制の運動の前に立ちはだかるのはアメリカ開拓時代以来の「銃文化」のほかに、政界に強い影響力を持つ全米ライフル協会(NRA)の存在がありますが、先月フロリダ州の高校で起きた乱射事件の後は、当の高校生が銃規制を求めて立ち上がり、デモ行進のほか、ソーシャルメディアなどを通じてNRAへの支援を止めるように呼び掛けています。これに呼応して銀行や航空会社など様々な民間会社がNRAとの関係を見直したり、NRA会員への優待サービスを中止したりする動きが出ています。
セクハラや性的暴行に反対して女性が声を上げる「#MeToo」運動も同じように多数の個人から発信して社会を変えようとする運動です。
社会を変革するためにどの銀行を使うかを意識して決める、そしてその選択を現状に対する対案オルタナティブとしてソーシャルメディアなどを通じて発信してゆき、社会運動に発展させる。これらは技術革新が可能にした、民主主義の新しい発展です。けれども、いくら科学技術やメディアのあり方が発展しても、市民一人一人が自分の生き方、社会のあり方について真剣に考え、それを他人と共有しなければ、社会は変わりません。誰もが住みやすい社会を作り出すのは自分たちだと自覚すること、それを実現するためには自分の行動範囲で変革のための行動を自ら起こすことが何より大切です。
気候変動・環境問題は経済活動の問題です。それに対する対策は国家のレベルで行われなければなりません。けれども、実業界に変革を迫るのも、政治家にシグナルを送るのも、市民界の立場から考える私たち一人一人の責任です。そして市民一人一人が慣習や利権にとらわれず、自由に判断できるようになるためには、教育によるエンパワメント、宗教・倫理学等による社会道徳の深まり、そして科学の発展などが必要です。つまり、政治も経済も究極的には文化に依存するのです。
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