もろもろの事情からしばらくブログからご無沙汰してしまい、このウェブサイトもほったらかしにしてしまいました。2019年はもう少しかかわっていきたいと思います。
【ヘンリー・ジョージ】
Earthsharing AustraliaおよびProsper Australiaは19世紀のアメリカの経済学者ヘンリー・ジョージの経済論(GeorgismあるいはGeoism)を提唱するオーストラリアの市民界組織です。ジョージは日本ではあまり知られていないようですが、土地は人類全体の共有財産であり、地代は社会全体に等しく分配されるべきだと説いて『進歩と貧困』を著しました。ジョージ主義を唱える人々は、地価が上昇するにつれて地主が何もせずに利益を得るのは不公平であり、土地を独占的に利用する権利を持つ人々はその土地の価値に見合った「使用料」を地価税として支払うようにするのがよいとします。また、それを有効に使えば、所得税や物品税などを廃止することができ、タックスヘイヴン(租税回避地)を介する税金逃れへの対抗策としても有効だと主張します。このジョージズムの視点に基づく「Renegade Economists反抗する経済学者」という番組は3CRコミュニティー・ラジオ局で毎月様々な経済学者や活動家のインタビューを放送しますが、今回は、クイーンズランド大学のCentre for Social Responsibility in Mining(鉱業社会責任センター)での研究で博士論文を書いているギャリー・フロメンホフト氏Gary Flomenhoftが述べた内容を紹介します。
【New Economy運動】
アメリカではニューエコノミー運動という、持続可能で人間中心の新しい経済モデルを模索する人々の運動があります。そこに流れる潮流は古くからあり、例えば次のようなものが挙げられます。
· 19世紀のカール・マルクスやヘンリー・ジョージ
· 1920年代に熱力学の法則に基づいた経済学について見解を示した科学者フレデリック・ソディ
· 地球資源の有限性に目を向けて1966年に「宇宙船地球号」の概念を経済学に導入したケネス・ボールディング
· 『Debunking Economics(経済学を暴く)』や『次なる金融危機』を著したスティーヴ・キーンなど
アメリカではNew Economics FoundationやE.F.Schumacher Society、New Economics Networkなどが連合して2012年にNew Economic Coalition (新経済学連合)が作られました。New Economic Movementという名の暗号通貨も存在します。
さて、同じ方向に流れているように見えるニューエコノミー運動ですが、それらすべてに共通する原理原則は存在するでしょうか?
フロメンホフト氏は、まず2011年のOccupy Wall Street‶ウォール街を占拠せよ〟運動を機に注目されるようになった二つのことを挙げます。一つは銀行業界の腐敗です。
【林による注:2007~08年の国際金融危機の発端はサブプライム住宅ローンの危機ですが、銀行は、優良客以下の客層はローンを返済しきれず破産してしまう恐れがあるにもかかわらず、サブプライムローンを商品化して銀行がもうかるようにしていました。金融機関が自分の利益しか考えていないということです。オーストラリアでも、銀行・年金・保険業界の不祥事が問題になり、王立調査委員会が設置された結果、大手銀行が死亡した顧客から手数料を徴収し続けるなどの不正行為が暴かれました。】
もう一つは、IT関連産業からベーシックインカムの導入の声が上がったことです。AIの導入などにより人間のやる仕事がなくなるとき、それを惨事としてとらえるのではなく、仕事を機械にやらせて、人間は週に10~20時間程度の労働だけで生活できるように社会の制度を整えればよく、そのためにベーシックインカムの導入が有効だというわけです。
【カール・ポランニー】
さて、そういう背景がありますが、どのような原理に則って社会を変えるべきかに関してはいまだコンセンサスがないようです。フロメンホフト氏はカール・ポランニーが著した『大転換』から次の三つを挙げています。
· 土地
· 資本
· 労働
フロメンホフト氏によると、ポランニーはマルクス、アダム・スミス、ヘンリー・ジョージの考えを一つのビジョンにまとめ上げました。(ポランニー以外にそのようなことをした人物を知らないと氏は言っていますが、わたしはルドルフ・シュタイナーの経済学がまさにそれだと思います。)ポランニーは封建制から市場経済までの歴史を概観して、三つの大きな欠陥を見つけました。人間を商品化したこと、土地を商品化したこと、貨幣を商品化したことです。これらは生産過程によって作られたものではないため、擬制商品だとポランニーは呼びます。単純に言うと、自由企業がうまくゆくのは競争があるからですが、企業が市場に参入して新製品を製造すると、他社の製品と競い合うことになり、それによって価格が下がり、消費者が恩恵を得るわけです。
それでは土地をめぐる競争はどうでしょうか?土地の供給は有限なので、新しい土地を市場にもたらすことはなかなかできず、その結果地価が上昇します。土地は自由企業の原則と正反対に働き、競争は恩恵をもたらさないのです。これが進んで、現在、市場が機能不全になっています。通常の経済学者や政治家は市場作用をもって問題を解決しようとしますが、それは不可能です。土地を市場から外して、投機の可能性をなくさなければなりません。
次に資本です。私たちは安定した交換のための手段であった貨幣を売り買いできる商品にしてしまいました。市中銀行が貨幣を信用創造するのを許可し、その金を使った資産の売買・投機を許しているのです。これによって生み出されるものは何もなく、この「富」は制度に寄生するものに他なりません。したがって、銀行からこのような権力をはぎとる必要があります。貨幣の発行は政府による公共投資によって行えるはずです。
三つめは労働者としての人間です。現在の考え方では、労働者は機械や資源と代わらぬ生産過程における一商品にすぎません。そのため、労働市場において売買され、もはや人間性を失ったものとなります。これに対する解決策は労働者による企業の所有でしょうか。
コンセンサスは今のところありませんが、ニューエコノミーはこれらの三つに解決策を示さなければならないのは確かです。フロメンホフト氏は、それについてポランニーが最も整合性のある考えを提示していると考えています。
土地、資本、労働についてはシュタイナーも多くを語っており、また、マーティン・ラージもその著『三分節の共生社会』でいくつかの解決策を提示しています。ジョージズムも紹介したいところですが、それらについてはまた改めて書きたいと思います。
参考:www.earthsharing.org.au
www.prosper.org.au
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