マーテイン・ラージ著、林寧志訳 © 2019 Yasushi Hayashi
『三分節共栄社会―自由・平等・互恵・持続可能性を実現する―』9の2
イギリスでは変革への圧力はしばしばアイルランド、ウェールズ、スコットランドなどの〝周辺〟から始まり、それらの国・地域で試験を重ねた上でイングランド〝本土〟で実施されることが良くあります。喫煙禁止は初めにアイルランドとスコットランドで実施され、その後イングランドとウェールズにも導入されました。したがって、もしアイルランドやドイツがBIを導入すれば、他の国もその経験から多くを学ぶことができるでしょう。BIの実施は働く者たちにとって、一九一〇年のロイド・ジョージによる国民保険の導入や一九四五年以後の福祉国家の建設以来の、転換点となります。BI受給権は人間の労働に尊厳を与え、賃金奴隷の痕跡を一掃し、労働を脱商品化し、全ての市民に基本的生活を保障するでしょう。BIは社会正義を具現するための重要なアプローチなのです。
このように、BIは公正で全ての人々が参加でき、公平な社会の実現に貢献し、労働の商品化の波をせき止めるのに役立ちます。ジェームズ・ロバートソンは次のように主張します。
BIがもたらす結果は二重の意味で進歩的である。まず、同額の給付金を受けた場合、高所得者よりも低所得者にとってより大きな価値があるので、この点で弱者を援助するBIは進歩的である。また、これを支える税制も所得や富の累進課税や消費に対する税という面でも富裕層に影響するので進歩的である。これは高所得者が高額の消費をすると、その物品やサービスの生産過程で消費されたエネルギーについて高所得者が低所得者よりも余計に負担することを意味する。つまり高所得者の所得・資産(給与・配当・資本増加など)のうち、土地所有やエネルギー等の共有財の利用から直接または間接的に得た割合が大きいと、所得に対する(間接的な)税金支払い率がより大きくなるということである。
J. Robertson, ‘Resource Taxes and Green Dividends: A Combined Package?’, 1998, online at www.jamesrobertson.com/book/sharingourcommonheritage.pdf 「資源税と緑の配当:組み合わせのパッケージ?」からMolly Scott Cato, Green Economics: An Introduction to Theory, Policy and Practice, London, Earthscan, 2008 『緑の経済学―理論・政策・実践の紹介』に引用されている。
BI実施へ向けての出発点としては、BIの支給を受けた若い失業者などが二年間ほど参加できるような(一部グリーン・ニューディールに基づく)コミュニティ奉仕活動をうまく組織するのが有効でしょう。結論として述べると、古代ローマ市民が土地を所有することで市民権・安全・富を獲得したように、私たちの時代においてはBIが社会的包摂・安全・共同の富を提供するようになるといえます。新自由主義の社会ダーウィニズムによって引き起こされた社会的排除・不安定・荒廃に対抗する手段なのです。
次章「住民・家庭・コミュニティのための土地」では社会変革のための第三のアプローチを示します。